一昔前に「下流社会」なる新書があった。結構売れた本で、本屋バイト時代に新書担当だったから読んだことがある。

下流社会
新たな階層集団の出現 三浦展/著
2005年 光文社新書
「いつかはクラウン」から「毎日100円ショップ」の時代へ
もはや「中流」ではない。「下流」なのだ
「下流」とは、単に所得が低いということではない。コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、つまり総じて人生への意欲が低いのである。その結果として所得が上がらず、未婚のままである確率も高い。そして彼らの中には、だらだら歩き、だらだら生きている者も少なくない。その方が楽だからだ。
光文社新書「下流社会」 三浦展 2005年
マイルド・ヤンキーなんて言葉も提唱された。前職の地方中小企業の3代目や若い管理職なんか、まんまこれである。マイルド・ヤンキー型経営者はJCこと日本青年会議所によくいる。
マイルドヤンキー
地元に根ざし、同年代の友人や家族との仲間意識を基盤とした生活をベースとする若者。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーでマーケティングアナリストの原田曜平が提唱している。現代の一般的な若者の志向とされる都市部集中、車離れ、晩婚化、少子化とは異なる経済活動や行動様式を持つと定義され、仲間と同乗して車を使い、地元企業に勤めて週末は幼なじみとショッピングモールに出かけるなど、行動エリアが半径5キロメートル以内で完結するという。 2014年
コトバンク / 知恵蔵
最近、「下流社会」や「マイルドヤンキー」と同等かそれ以下の収入で、そういう人達とは全く無関係に暮らす階層ができている気がする。
それは、この片田舎に暮らす外国人労働者である。
ただ、それは「下流社会」等で描かれる人々とは、本質的に全く異なっている。
法的な制約や雇用体系により、努力で階層を上がることが「できない」。マイルドヤンキーのように、地域や家族に奇妙な「絆」や「縁」も感じてはいないだろう。この街はたまたま働きにきた土地であり、家族は母国にいるからだ。
そんな自分も、この生まれ育った片田舎でオタクなフリーランス・リモートワーカーをやっているので、下流かもしれないが、マイルドヤンキーとは無縁になった。自分はクルマを持っていないので、根本的に田舎の多数派とは異なるライフスタイルで暮らしている。
私の住む街
- 人口10万人以下
- 神戸まで電車で1時間
- 江戸時代からの旧市街地と、70年代からのニュータウンが同一市内にある
- イオンモールはない、旧ジャスコはある
- 工業団地はあるが、それほど大規模ではない
- 伝統産業は何とか続いている
私の暮らしている地区は旧市街地にあたるため、郊外ではない。数キロ離れた丘陵地が70年代からニュータウンとして切り拓かれ、今でも小規模ながら新規区画が分譲されている。
自宅近辺は、旧ジャスコのイオン近くで非常に便利が良い。徒歩圏内にイオン含めスーパーとドラッグストアが複数、ファミレスやホームセンター、銀行、郵便局、駅があり、開業医も何軒かある。もちろんコンビニも数軒あるし、「ユニクロ」「しまむら」もある。市役所は少し遠い。
産業については、あまりぱっとしないが繊維や織物の産地のような衰退はしていない。織物など生産量が全盛期の1割以下という地域もあるようだが、それに比べると全然いい方である。80年代に工業団地が造成されて、県内企業や地元企業が立地している。
商店街は90年代には既にシャッター街となっているが、戦後から昭和40年代まではとても賑わっていたそうだ。今となっては数店しか営業していない。その時の儲けが凄かったのと店主の高齢化、駐車場を作れない立地のため、もはやテコ入れや振興策も特に行われていない。この商店街は役目を終えたのだ。
隣に引っ越してきた技能実習生
前のアパートで5年ほど前だから、2015年頃になる。夏のある日、隣に技能実習生3人が入居するとのことで、受け入れ企業と仲介の組合と実習生3人、計5人が挨拶にきた。入居するのはベトナム人男性3人。
受け入れ企業は隣の市の製造業。丘陵を越えて4kmぐらいのところに、規模が大きな工業団地兼物流団地がある。市内の工業団地より割と新しく、一区画あたりの面積も広い。そこの企業で雇用されるそうだ。「どうやって通勤するのだろうか」と思っていると、自転車が支給されていた。うちの市からも通勤圏内だが、団地内外の高低差が大きく坂がキツいので基本的にクルマ通勤である。実習生もやっぱりキツいらしく、早々に電動アシスト自転車に買い替えていた。ていうか、日本人はクルマ通勤の立地なのに、実習生には3段変速の自転車で通勤しろって酷い話だ。
実習生3人は20代前半から半ばらしく、朝7時に大音量で音楽を流したりするため、流石にこれは会社に指導してもらうよう連絡を入れた。日本語はどれぐらい話せるか分からないが、共有部で出会ったら挨拶ぐらいはしていた。
近隣トラブルといっても入居中はそれぐらいであったが、退去時に大量のゴミを集積所に置いていかれたので、これはもう会社にも自治体にも言わず自分が清掃センターまで持ち込みで処分した。「やっぱりな」という感じで、十分あり得ると予測していたから。
で、自分たちが引っ越す数ヶ月前に隣に入居してきたのも、人材紹介会社だか組合だかに仲介された外国人労働者らしい。
それとは別に、自分たちの住み替えのために築10年20室×3棟ぐらいの規模のアパートに内見に行った。2人世帯向けで物件はまあまあよかったのだが、3つある駐輪場の一つに同じ型の自転車がずらりと20台ばかり並んでいた。ある工場の駐輪許可証が泥よけに貼られていたので、会社から支給された自転車なのだろう。
また、朝夕になると通勤送迎のバスが走っている。これはずっと昔から、2~3社が自社のロゴをつけたマイクロバスとかでやっているのもある。
が、最近はどこの会社へ行くのか分からない無地のマイクロバスが増えてきたように思う。会社名は書かれていてもバス会社の社名だったりする。
これがどうも外国人労働者の日勤、夜勤の送迎をやっているらしい。目立つところでは、近所のローソンに発着するのだが、通勤のために乗ってきたであろう自転車が10台ばかり常に駐車場の片隅にゴチャゴチャ駐められている。そして「若者」とおぼしき人がポツポツと降りていくのである。また別のところで、バスを待っている「若者」が2、3人ぐらい固まっているのを見ることもある。
昔からある自社所有の送迎バスは大体、パートの女性を対象にしている。「客層」が全然違うので、無地のマイクロバスは外国人労働者の送迎だろうと推測している。
このように、結構な数の外国人労働者がいるのだ。統計では大体2000名ぐらいらしく、おそらく自宅近隣の地区に集中して住んでいるのだと思う。ニュータウン内に住んでも雇用先がない。国籍はどこが多いかまでは分からない。見た目でおぼろげに地域が分かる程度である。女性は中国系だろうか、日本人と見た目が変わらない人が多いようだ。男性は東南アジア~中東か、結構幅広い地域からきている印象。
男女共に、ルームシェアしている人と買い物に出かけたりするらしく、高校生より上の年代の若者が複数人で自転車や徒歩でウロウロしていれば、大体が外国人労働者と思われる。
大学生以上の日本人はクルマで外出するから。
クルマを持っていない外国人労働者
自宅近くで見かける外国人労働者は、おそらくほとんどの人がクルマを持っていない。先に書いたように、駐輪場に20台の同型自転車が並んでいるのである。
東南アジア諸国からの来日だと、母国で免許を持っていても技能試験が必要らしい(国によるが申請だけでOKな国は欧米が多いと思う)。小型二輪の飛び込み試験に行ったとき、午後などは二輪車の外国免許転換の技能試験をやっているようだった。東南アジア系とおぼしき若い男性が何人か受験するのを見たことがある。
東南アジアや中国での自動車免許の取得率はかなり低いはずで、日本にきてから自動車学校に通って免許取得、自家用車を購入はかなり難しいと思う。まず外国語で教習を受ける難しさ。次に、免許取得の時間と費用。クルマの購入と維持の費用を考えると、収入面でとても無理だろう。ローンなど、残価設定型にするにしても組めるのかどうか。ギリギリ走れば良いという中古なら即金でもなんとかなるが車検費用が厳しい。
そうなると、移動手段は当然、徒歩か自転車である。自転車は電動アシストもよく見かける。勤務先である工業団地が丘陵にあるのが一因だろう。繰り返すが、日本人はクルマ通勤の立地なのに、外国人労働者は3段変速自転車で急坂を数キロ走って通勤させている。
これが意味するところは、外国人労働者は郊外型、ロードサイドといわれる大型店舗を利用できないし、利用しないのである。もっとも、市内には大型ロードサイド店はないのだが。
「下流社会」「ファスト風土」で描かれた典型的な地方のライフスタイルでは、ロードサイドショップや郊外のイオンモールが必須要素となっている。
「マイルドヤンキー」のようなライフスタイルでもないだろう。「マイルドヤンキー」のライフスタイルもクルマが前提である。むしろ、趣味がクルマだったりする。
一方、外国人労働者はクルマはないし、半径5kmどころか、この近辺に限ればプライベートは半径2km以内で暮らしているだろう。かくいう自分もそうだ。普段の買い物など2km圏内で、病院だけは少し遠くに行っているぐらいだ。仕事は在宅ワークだし。
もっとも、地方だと半径5km圏内で仕事もプライベートも完結する人はあまり多くはないと思う。みんなクルマを持っているため、10km、20kmは通勤圏内である。ちなみに、自宅から最寄りのイオンモールまでは約20kmである。
サブリースの新築アパートと築古アパート
我が街も最近の流行に漏れず、サブリース・アパートが雨後の竹の子状態である。大東建託よりも、セキスイのシャーメゾンが「順調」に戸数を増やしている感じ。続いてダイワハウスが多いかも。ワンルームのレオパレスも建っている。
日本人は低所得といえ、おそらく新築や築浅のアパートに入居している。築年数が古い方が家賃が安く、おそらく借り手を選り好みできないのだろう、外国人労働者はそちらに住むことが多いようだ。都市部の友人曰く「大家さんによっては外国人を嫌がる」そうだが。自分が前に住んでいたアパートは築30年であり、隣室は3回、外国人の借主が入居している。
この近辺は1995年頃と2010年代後半から今と2回ほどアパート建築が短期間に続いたらしき時期があり、1995年頃に建築されたアパートは空室が多そうだ。シャッターの雨戸が閉まったままで、無住の部屋のある物件が多い。リフォームして新たな入居者で埋まっている物件もいくつかある。
3年ぐらい前にできたレオパレスのワンルーム賃貸など満室になったことはあるのだろうか。そもそもどういう需給予測で、ワンルーム30部屋など建築されるのか分からない。市内に大きな大学も大企業もなく、人口は30年横這い。世帯数は増えているが、高齢化で一人暮らし老人が増えているためだそうだ。そして、高齢者一人世帯もまず入居は嫌がられる。孤独死の可能性があるからだそうだ。
旧居のすぐ近くに、この4月にワンルームのみ3階建てのダイワハウスのアパートが建ったが、4月末時点で1階は全戸空室のようだ。新型コロナウイルスで新入社員の配属や異動が延期になっているとかで、まだ空いているだけかもしれないが、おそらくこのまま空室率は変わらないか、悪くなるだけではないかと思う。
先に書いた自転車20台アパートは、2LDKの間取りで新婚夫婦か子供が一人二人の家族向けの間取りである。そういう間取りに外国人労働者が複数人で同居するパターンが多いようだ。確かに一人あたり家賃は一番安く上がるだろう。とはいえ、既に2010年代の二人世帯向けアパートすら外国人労働者が多く部屋を埋めている状態である。
ところで、私の親戚がアパートを経営していた。しかしアパートも築年数が経過してきたし経営も大変なのでアパート経営をやめて取り壊そうと思ったが、最後の1世帯が退去するまで数年かかったと聞いている。サブリースの35年一括借り上げ満了後に、1室だけ入居した状態で物件が返ってくると、非常に面倒なことになるのではないかと思う。まあ、今から35年後の2055年なんて日本という国があるのかどうか、自分はそんな心づもりで暮らしている。
最近流行りのサブリースはまともに借り上げ期間を満了するとは思えない。10年と経たずに家賃収入はなくなるのでは?と思う。既に契約見直しとかで収入が激減した大家の悲鳴もマスコミで報じられているようだし。
こんなライフスタイル?
- 築10年~30年ぐらいの新婚や子育て世代向けのアパートでルームシェア
- 通勤はバスか電動アシスト自転車
- ルームシェア仲間と連れだってスーパーで買い物
- 休日は職場仲間や、同郷の友人と部屋で集まる
- スマートフォンは持ってると思う
- パチンコなどはしない
- 家電などは支給品を使うか、リサイクルショップで買う
- 昇進、昇給はない
- 住み替えも難しそう
全て私の憶測である。
趣味とか遊びだが、部屋に集まって皆でご飯を食べるとか映画を見るとか、そういうのが多いのでは?というのが隣室の様子からの推測。PCを持っている人もいるらしく、Windowsの通知音が聞こえるときがあった。バス釣りブームも昔のことになったが、自転車で釣り竿を持っている人も見かけることがある。ネット通販の利用状況は分からないが、ECサイトは日本語だから使えないと思う。「やさしい日本語」モードでもあれば使えるかもしれないが。
パチンコは金がかかりすぎ、ネットカフェやカラオケは母語の本や歌が入ってないだろうから楽しめそうにない。何しろ金を稼ぎにきたのに、娯楽で散財するようなことはないだろうし、日本で結婚することもないと思う。国籍は母国のままだから、婚姻届は出せない。
家電については、自転車のように雇い入れ会社や仲介者で用意しているのではと思う。
そして、最近はこの近所でもリサイクルショップが再び増えている。
2000年代にリサイクルショップが増えた時期があるのだ。ブックオフのような新古書籍をやり始めた書店やレンタルビデオ店がリサイクルショップに業態を変えたり、撤退したチェーン店の居抜きでリサイクルショップが開店したりと、数軒が開店した。
昔ながらの事務機器や厨房機器も扱うリサイクルショップもあって、そこは親子二代でやっていたりする「老舗」である。リサイクルショップは長らく近隣にはこの一店舗しかなかった。
そしてこの数年、再びリサイクルショップが何軒かできた。不要品の引き取りをして、そのまま倉庫みたいな店舗に並べてあるタイプ。どうも経営者は外国人らしい。
ここで外国人労働者の増加と関係があるのでは?と思ったのである。もしかして、外国人労働者向けに安い中古家電、中古家具を販売するための店ではないかと。
この街には今まで、外国人労働者向けの商売はなかった。
彼ら、彼女らの方が健全かもしれない
「下流」なる階層や、「マイルドヤンキー」とやらのモデルには自分など嫌悪感や違和感がある。そんな連中ばかりではないが、実際、地方にはそんな連中は存在している。ただ、「東京の広告会社が偏見で作り出した虚像じゃないのか」という印象は拭えない。
地元に帰ってきてから、中学校の同級生のうち二人と再会している。一人は地元企業の3代目として、もう一人は書店バイト時代の同僚として。いわゆる「マイルドヤンキー」には前者がかなり近い。
自分や書店バイト時代の同僚など、実は外国人労働者の生活に近い。20台半ばにバイトしていた頃は二人ともクルマは持ってなかった。同僚の友人はこの数年内に久々に会った時は流石にクルマは持っていた。自分の場合、オタク趣味はネットと、ネット通販があれば全然できたし、家のクルマを時折拝借していた。ただ、20代半ばに地元暮らしをしていた頃は、両親がまだ定年前でフルタイムで働いていたから、いつでも好きなときにクルマを使える訳ではなかった。
そしてクルマに関しては「高齢ドライバー」問題がある。ご多分に漏れず、うちの市も高齢化率は高い。クルマで夫婦でスーパーにきて、たらたらレジをしてたらたら運転して帰って行く。運転がおぼつかなくなってきているのに、わざわざクルマでスーパーにやってくる生活は「健全」だろうか。自分には不自然に映る。
当然、クルマで買い出しに行かないと現代的な生活を送れない地区はある。しかし、運転技術がおぼつかない状態になってもまだ、昔と同じような生活にしがみつくのは考え物である。それは生協の配達を使うとか、行政が巡回販売を支援するとかでカバーして暮らして欲しい。
こうして考えると、クルマを持たない生活をしている方が健全ではないかと思う次第である。
これからの田舎の社会階層
そして、こんなキツい人口動態予測なんかをしてしまう訳である。
- 多数派
- 高齢者
- 未婚パラサイト
- マイルドヤンキー
- 外国人労働者
- 少数派
- 独身の単身世帯
- 新婚夫婦
- 子育て世代
一体これで地方をどう維持していけばいいのか。
産業や地方自治の舵取りなどやっていけるのか、人材が育つのか。
無理だ。
もっとミクロな観点でいえば、多数派の人達はゴミ出しルールを守らない人が多い。高齢者に関しては「守れない人」も増えていると思う。老化とともに生活能力が落ちるのだ。なので、旧居では自分が集積所を勝手に掃除していた。不法投棄で集積所の容積が1/3埋まるという異常事態が、中々解消されなかったのがきっかけである。自治会も動かなさすぎる。毎月家賃と一緒に自治会費はしっかり引かれているのに。
単純に若い移住者を呼び込めばいいというものではない。どこの自治体も、そういう人達を取り合っているのだ。
なにかこう、抜本的に考え直さなくてはならないのだろうが、対策のしようもなく緩やかに滅ぶしかないのだろうなと、漠然と思っている。